FEATURE2

神宝となったお馬 生きつづける日本原産馬

特集二

第3室で展示している御装束神宝調製工程品
「鶴斑毛御彫馬」について解説します。

第3展示室の見所は、大きなケースに収められた馬体彫刻の真に迫る迫力や細密な彫金技術の品目の数々です。せんぐう館ではこれらの資料を「御装束神宝調製工程品おんしょうぞくしんぽうちょうせいこうていひん」と称しています。これは、今回の式年遷宮を機会として新たに御装束神宝と同じ素材を用い、調製者ちょうせいしゃ(御装束神宝を定められた仕様のとおり伝統技法で作りあげる工匠)が持てる技術を余すことなく駆使して製作された工程を示す資料です。

鶴斑毛御彫馬つるぶちげのおんえりうまは、正宮に次いで本年(平成26年)式年遷宮が行われる別宮べつぐう月讀宮つきよみのみやの御装束神宝のひとつです。馬や馬形を奉納する歴史は古く、『続日本紀』には大宝2年(702)飛騨国が神馬を献じたことが記録されています。また伊勢では斎宮跡から飛鳥時代から平安時代前期にわたる土製の馬形「土馬どば」が発掘されています。このような慣習は現在も願い事を絵馬に書いて神社に奉納することに残っています。神宮式年遷宮で調製される御馬は、延暦23年(804)に神宮の祭典と儀式について書かれた『延暦儀式帳えんりゃくぎしきちょう』には「土馬はにま」と記されており、土製の馬形(塑像そぞう)であったと考えられます。しかし長暦2年(1038)の第19回神宮式年遷宮に際して調製された御装束神宝が書かれている『長暦送官符ちょうりゃくおくりかんぷ』には「彫馬」とあり、以後木材を用いた「御彫馬」として調製することになりました。

背高は1尺3寸(およそ40センチ)で、檜材ひのきざいの木地に彩色を施し、馬体に唐鞍皆具からくらかいぐを装備した飾馬かざりうまを模しています。鶴斑毛とは白と黒の斑模様をした毛並みの馬であり、神馬しんめや貴人の乗馬として古くから珍重されて中世の絵巻にも描かれています。また「唐鞍からくら」とは平安時代に天皇の重要な儀式に供奉ぐぶした馬に装着される馬具です。神宝として調進される御彫馬は計6体ありますが、その製作には9年かかり、木彫・染織・彫金・漆芸など50名ほどの人々がたずさわっています。
神宮徴古館ちょうこかんには第59回式年遷宮に際して調進された鶴斑毛御彫馬を展示しており、精緻で華麗な姿をご覧いただけます。

せんぐう館の展示は、式年遷宮と神宮の年中のまつり、まつりと共に伝えられてきた工芸・技術を広く参拝者に知っていただいて、後世に式年遷宮を伝えていくことを目的としています。私たちの遠い祖先から絶え間なく繰り返してきたおまつりとそれに伴う営みが、今も着実に受け継がれていることの素晴らしさに気づいていただければ幸いです。伊勢神宮や式年遷宮に親しみを感じていただくきっかけとなって欲しいと願っています。