FEATURE3

式年遷宮はつづく 第一回 森そして山の営み

特集三

天皇陛下より御発意を賜りました
第62回神宮式年遷宮は、
内宮外宮の両正宮と14別宮の遷宮祭が執り行われ、
平成27年3月に完遂しました。
しかしすでに次期式年遷宮を見据えて
新たな組織が発足しております。
当館は神宮式年遷宮を通じ日本人の心と
技の継承を目的とする博物館です。
特集として「御装束神宝の調製」「社殿の造営」
「宮域林等の維持と育成」について、
神宮職員が専門的な立場で式年遷宮の今、
そしてこれからの取り組みをご紹介します。
第一回は宮域林の維持などを担当する
営林部えいりんぶからのお話しです。

神宮宮域林 御造営用材の育成について

神宮宮域林(以下、宮域林)は、約2,000年前に天照大神が内宮神域に御鎮座されたときから、神路山、神道山、天照山などと呼ばれ、大御神の山として崇められてきました。第1回の式年遷宮が斎行された時から、宮域林は式年遷宮に必要な御造営用材(ヒノキ)を伐り出す「御杣山」と定められました。
300年前には木曾の山々が御杣山として朝廷に定められ、以後多くの御造営用材は木曾から供給されてきました。今回の遷宮でもその多くは木曾産のヒノキが用いられています。しかし将来にわたって安定的な御造営用材の供給を期して、神宮では新たな試みで森を育んでいます。

伊勢市の南部に位置している宮域林の面積は約5,500haあります。大正12年(1923)には、宮域林の管理経営の基本方針ともいうべき「神宮森林経営計画」が策定され、その中で宮域林は第一宮域林と第二宮域林に区分されました。
第一宮域林は、約1,100haあり、内宮神域の周囲並びに宇治橋付近、宮川以東の鉄道沿線より望見できる箇所で、五十鈴川の水源を維持しながら、神宮境内の風致増進を目的とし、風致の改良及び樹木の生育上必要な場合を除いて生木の伐採を行わないこととしています。第二宮域林は約4,400haあり、第一宮域林と同じく五十鈴川の水源を維持しながら、神宮境内の風致増進を図り、御造営用材となるヒノキの育成をしています。
御造営用材の育成は、ヒノキ造林地で行っており、その面積は約2,300haあります。御造営用材は、立木の直径(地際より高さ1.2mにおける直径)が1mを超えるものも必要ですが、直径60cm前後の立木から採れるものが主体であることから、直径60cmを育成の目標としています。
このため、将来御造営用材になることが期待できるヒノキを予め選定し、育成しています。

立木に優劣がでてくる林齢30年生以上の林分に対して、幹の通直性、太さ、根張り、枝ぶり具合等を見極め、最も優良なものは大樹候補木とし、これに次ぐ優良なものは御造営用材候補木として選定しています。
大樹候補木は、白色のペンキで二重巻き表示をし、間伐の際には、枝先が触れあう隣の木を優先的に伐り、肥大成長を促進させる間伐方法(受光伐)を行っています。
この結果、枝葉が発達することにより、通常より1.5倍程度の肥大成長促進が期待でき、200年生の時に直径1m以上に育てることを目標にしています。御造営用材候補木は、白色ペンキで一重巻き表示をし、200年生の時に直径60cm以上に育てることを目標にしています。大樹候補木を1ha当たり50〜70本選定できる造林地を第一作業級とし、これ以外を第二作業級として取り扱い、第二作業級では、大樹候補木を1ha当たり10~15本選定しています。
各作業級とも大樹候補木と御造営用材候補木の選定本数は、1ha当たり合わせて200本としています。間伐を繰り返して行い、200年生の時には1ha当たりの存立本数を100本程度にしていきます。この過程で、造林地に侵入してくる広葉樹もヒノキとともに育成し針広混交林を仕立てることとし、森林生態系の調和を図っています。平成26年現在、大樹候補木は約30,000本、御造営用材候補木は約28,000本選定済みで、今後も選定本数を増やしていく計画です。
今回の第62回式年遷宮では、宮域林から御造営用材の一部を供給でき、目的の一部を達成できたことになりますが、今後も「神宮森林経営計画」の基本方針を引き継ぎ、将来は全ての御造営用材が宮域林から供給できるように取り組んでいます。

川口萱地 萱の育成について

御社殿の屋根はススキで葺かれ、1回の遷宮に精選された直径40cmの束で23,000束が必要です。現在では昭和17~18年に大日本青少年団により編成された神宮御萱地造成奉仕隊によって開墾、萱の植付けが行われた三重県度会郡度会町川口にある川口萱地約99haで萱の育成を行っています。萱地は人の手を加え続けないと森林へともどります。それを防ぐために雑草刈り、萱の刈り捨て、火入れ等の手入れを行っています。
4、5月には優良萱の株分け、植付け、5、6月には台風被害防止、優良萱育成のために必要な「青刈り」と呼ばれる萱の刈り捨て、6~8月には萱の生育を阻害する雑草の刈り払い、雑木の処理、9~3月には優良萱育成のために必要な萱の刈り捨てを行います。

この他にも萱の生育を阻害する笹根の除去、樹木の伐採、鹿の食害防止のための獣害防止ネットの設置、必要に応じて害虫防除等のための火入れを行い、優良な萱が育成できるように取り組んでいます。
営林部は、ヒノキやススキという御造営用材の育成と安定的な供給を目標として日々努めています。社殿造営に欠かすことが出来ない御造営用材を育むことは、まさに「神宮式年遷宮のこれから」を担うことです。
また毎年4月には大宮司以下神宮職員が御杣山に入って植樹を行う嘉例として神宮植樹祭が斎行されています。
神宮式年遷宮の営みは今、この時も脈々とつづいているのです。